day/dreamer

敬愛する古明地洋哉さんをはじめ、音楽や芸術について書き綴っていきたいと思っています

the lost garden


 『the lost garden』は、古明地洋哉のメジャーデビューアルバム『灰と花』の冒頭を飾るナンバーだ。
 伝説的な一曲でもある。


 デビュー前の1年間、ほぼ家にひきこもった状態で曲作りに没頭していた古明地さんが、最後と決めたオーディションに持っていった曲だという。それが、以前のマネージャーの目に留まり、古明地洋哉という表現者はデビューへと進み始めることになる。
 インタビューで古明地さんは、この曲への複雑な思いを語っていた。どん底の状態で作った曲なだけに、思いいれもある一方で、発表はしたくない、と。それに対する、インタビュアーの加藤亮太氏の「作品化してほしい」という意見に、僕は大きく頷いていた。ぜひとも聴きたかった。


 メジャーデビューアルバム『灰と花』が出たとき、僕は築地にある編集会社のアルバイトだった。道をまっすぐ歩けない状態から、ようやく回復し始めた時期だ。
 発売日の昼休み、銀座にあるCDショップまで歩いていき、初期の古明地作品のアートワークを一手に手がけていた矢野真里さんのジャケットも素敵な、そのCDケースを手に取った。『讃美歌Ⅰ』『讃美歌Ⅱ』が黒を基調としたトーンだったのに対し、『灰と花』のトーンは白だった。その一曲目にクレジットされた『the lost garden』というタイトルを見て、僕がどんなに心を躍らせたか。
 

 『the lost garden』には2つのバージョンがある。


 アルバム『灰と花』の一曲目に収録されているスタジオ・レコーディング・ヴァージョンと、シングル『ghost/ライラックの庭』のカップリングとなっているVS880 DEMOのバージョンだ。


 スタジオレコーディングヴァージョンは、ボーカルが強調されて、ギターのハーモニーとドラム音も重厚。蔦の絡まった西洋調の重い石の扉を連想させる。特にギターのハーモニーの美しさは素晴らしい。だけど僕は、古明地さんの語ったlost gardenへと通じる閉ざされた扉の前で立ち尽くしているような気持ちになってしまう。
 それは、メジャーというものに対して、偏見を持つ僕の、自分勝手な解釈かもしれないけれど。


僕が好きなのは、それからずっと後に聴くことになった、DEMOバージョンの方だ。これが『灰と花』の一曲目であったなら、僕はもっと早く『灰と花』の真価に気づけていたかもしれないと思う。


 DEMOバージョンの『the lost garden』では、ボーカルはもっと後ろのほうでぼそぼそと歌っているに過ぎない。あきらかにバックに隠れた存在としてボーカルがある。
 そして、5小節目から突然現れる狂気じみた単音ギターの響きの物凄さが、この曲を決定的に感動的なものにしている。あの頼りなくも美しいギターの音色を聞いたとき、僕はついに古明地洋哉さんのlost gardenに足を踏み入れた気がした。

ghost/ライラックの庭

ghost/ライラックの庭