11年前の、大学卒業式
四年間にわたってずっと片想いしていた女の子は、晴れ着姿で光沢スーツの男達に囲まれていた。
僕は、さえない背広を着て、さほど仲良くもない友人と、ベンチだかコンクリートブロックだかに座ってその様を見ていた。
本当に何にも言えないまんまだったな…。大学に入ったばっかりの頃、俺には何だってできるような気がしてたのにな…。
そんなことを考えてたような気がする。
11年前のことだ。
就職は決まっていなかった。
コンビニかファミレスあたりの、時間に余裕のあるバイトでもしながら、小説を書くか、宅録の音楽を作ろうと思っていた。一応、少しは就職活動もしていたんだけど、僕は自慰行為で心も体もヘロヘロになっていた。人生=快楽だと思い込んでいた、馬鹿だった20代の俺。鏡の前で、なんで俺には白髪があるんだろう、なんで目の下のくまがとれないんだろう、なんて思ってたっけ。大学院に進学する手続きすら、面倒に思っちまって、しやしなかった。
ファミレスの深夜バイトは1ヶ月で辞めた。その後、編集社にバイトで雇ってもらって、1年半くらい働いた。その間、デモテープを何曲か録って送ったけど、依然として自慰行為でエネルギーを消耗してた僕に、音楽的なインスピレーションなど宿るわけもない。
最も忙しくなる年末の手前に仕事をやめて、12月31日が締め切りの文学賞に向けて小説を書き始めた。どうにかこうにか、締め切り当日に郵便局に封筒を持って行ったが、1次にすら引っ掛からなかった。僕は約2年ぶりに大学を訪れて、就職課の掲示板の前に立った。
思えばあの卒業式の日、僕にはまだ古明地洋哉というヘッドフォン越しの友人はいなかった。彼がシーンに登場し、僕の前に姿を現すのは、それから1年以上後だった。
僕の二年遅れの就職活動を後押ししてくれたのは、アンドリューWKと古明地洋哉という、全く違うタイプの二人のミュージシャンだった。